こんにちは。うどん研究者です。僕は研究者のたまごでもあり、医者のたまごでもあります。
最近、医学部の知り合いといつ博士号をとるかという話をよくすることがあります。
今回の記事では医学部を卒業した人がキャリアのどの段階で博士号をとるのか、ということについて、いろいろな先生から聞いた意見・体験談に基づいて、一医学生として考えたことを話していきたいと思います!
いつ博士号を取るか考えている医学生の方などに参考になれば幸いです!
大前提:医学部の卒業のあとは修士?博士?
日本では医学部は6年制であり、学士(理系ならBS、文系ならBA)+修士(理系ならMS、文系ならMA)に相当すると考えられているため、卒業後は博士課程への進学が可能です。
しかし、修士への進学が不可能というわけではありません。例えば、医学以外の専門の修士や(例えば心理学など)、公衆衛生学修士(MPH)や経営学修士(MBA)を取る人も一定数います。
また、所要期間としては、医学部の博士課程は基本的に4年制となっています。

博士号は必要か、なぜとるのか
大学にもよりますが、僕の大学の医学部出身者は多くの人が博士号を取っています。
実際に博士号を取った多くの医師の先輩の方々から実際に伺った、博士号をとる理由は以下のようなものです。
研究に興味があるから
キャリアアップに必要・自分の経歴に箔がつく
大学の医局に残りたいから
臨床に飽きた・医療者としての資質に幅を広げたい

1つ目の大切な側面として、博士号は経歴として一定の評価を受けるということです。
経歴の評価基準は専門の科によってかなり異なってきます。
一般的に内科系では博士号は経歴としてかなり重要なファクターとなります。外科系では手術件数や担当症例の種類などが重要になってきますが、それでもやはり、外科系の人も博士号を取る人は多くいます。
血液内科や消化器内科など研究がさかんな科ではどのような研究をして、どれくらいのインパクトの論文を書いたのか、ということまで評価される傾向にあります。
また大学でのポジションを考えている場合、医局に入るということが前提になり、博士課程進学が伴ってきます。

医局に入るメリットとしては、大学病院や関連病院など就職先が安定して得られることなどが挙げられます。
反対に博士号を必ずしも取らなくてよさそうな例は以下のようなものです。
外科で、その科では、手術件数や担当症例がものをいう
市中病院でずっと働き続けることを希望しており、自分のキャリアに博士号は必要ない
自分で開業する
親の医院を継ぐ
社会医学系や厚労省の医務技官に進む

博士号vs.専門医
博士号とよく比較されるのは専門医という資格です。この資格の取得条件は科によって様々ですが、その科での一定の年数の臨床経験+筆記試験で取得できるものが一般的です。
専門医制度は近年変化を遂げており、新専門医制度が導入されれば、専門医取得までさらに長い年月がかかる可能性があります。新専門医についての説明はレジナビのウェブページで詳しく紹介されています。コチラ。
博士号と専門医どちらがいいかと言われれば、答えは人それぞれだと思います。
ただ、某先生がおっしゃっていったのは、専門医は医師として一定の期間以上働いていれば勝手に取れるようになるから、博士号を取りに行った方がよいということです。

博士課程をいつはじめるかは自分で決められる
医師の卒業後の臨床の一般的なキャリアは2年間の初期研修、その後3~4年間の後期研修となります。後期研修の修了後はようやく医師として一人前となります。
大学に戻っていつ博士課程に進むかは、自分のタイミングで決めることができます。
卒業後、初期研修後、後期研修後、さらにそのあと。いつとるのかは自分の選択次第です。

博士号はどこでとるの?
もっとも一般的な取り方は大学病院に併設されている臨床の研究室に行くというものです。
臨床の研究室とは基本的にはその大学の専門科の医局により運営されているラボのことです。つまり、臨床の研究室で博士号を取る医学部出身者は、基本的にその医局に所属することになります。
臨床の研究室の対は、基礎の研究室ということになります。基礎の研究室は医学部のキャンパスにあるラボのことです。ここでももちろん博士号取得が可能です。
ここで注意しておきたいのは臨床の研究室は臨床研究ばかりしていて、基礎の研究室は基礎研究だけをしている、というわけではないということです。

臨床のラボでも細胞株やマウスを用いて、基礎研究をすることはありますし、基礎のラボでも病院から臨床検体やデータをもらって、臨床研究をすることはあります。
1つ、大きな違いとしては臨床のラボはPI(ラボリーダー)を含め、大半の人が現役の医師である一方、基礎のラボは多くがフルタイムの研究者であるということがあります。
したがって、臨床のラボでは実際の病気を診ている中で生まれるクエスチョンや、新しい治療法につながるか、などといった視点を通して、研究テーマが決められることがよくあります。
一方で基礎のラボでは、よりベーシックな生物学の観点から研究を行っていくことが多い傾向にあります。
基礎のラボは研究だけで食べている人たちを中心に運営されています。そのためか、研究費は基礎のラボの方がより豊富にあることが一般的なようです。
また、医局に属しながらも、基礎のラボに行くという例もあります。これはどういうことかというと、医局の属しながらも、コラボしている基礎の研究室に通い、そこで研究を行い、論文を書くというものです。

また日本に限らず、海外の大学院に行き、基礎の研究室で学位をとるという方法もあります。
博士課程中の経済面はどうするのか
日本の国立大学の博士号に進む場合、入学費が30万円程に加えて、年間50万円×4年間となります。海外では給料がでますが、日本では給料はでません。
自分にかかる費用だけではなく、人によっては、配偶者や子供がすでにいて、家族を養わなければならないこともあります。
医師だからと言って、博士課程中の経済状況は決してラクなものではないようです。
初期研修を終えた医師は病院での非常勤のアルバイトができるようになります。博士課程の医師多くの人たちはアルバイトによって学費と生活費を賄っているようです。アルバイトの頻度は週に2、3日が一般的です。
奨学金を受給することも可能です。
一般的な奨学金としては日本学術振興会、通称「学振」の奨学金があります。
これは月20万円の補助となりますが、アルバイトなどに制限がついてきます。
他にも様々な奨学金があります。これを紹介した記事はコチラです。
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【2020年最新版! 40団体以上まとめ!】国内・海外の大学院生(博士・修士課程)への給付型奨学金
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博士課程は実際に4年間で終わるのか
博士号は医学研究の場合、基本的に4年間ということになっています。
※ごく稀に3年で終える人もいるようですが、これは3年以内にトップジャーナルで発表するなどといった限られたケースです。
しかし、一般的には4年で終わる人はそんなに多くないという実情があります。
5年、6年かかる人はざらにいます。
その理由を考えてみましょう。
1つは、研究に充てられる時間が少ないためです。
1週間のうち、医師のアルバイトに2日、家族サービスや休みに1日をかけるとすると、ラボで働ける日数は週4日となります。一般的な博士の学生が週6日働いているとすると、その1.5倍の年数が博士取得にかかることになります。
また医局によっては最初の1年間は大学病院でフルタイムで働くことを条件にしている医局もあります。
これは人材不足の大学病院の労働力を補う手段ですが、院生は最初の1年間はほとんど研究をできずに終えてしまいます。この場合プラス1年かかるのは当然のことなのかもしれません。
2つ目の理由として、大学やラボは博士課程の学生に給料を払っていないため、急いで卒業させる必要性に欠けているからです。
日本の大学院では院生はラボにとってタダの労働力です。ラボとしては院生にいてもらえると助かるのです。
一方でアメリカやヨーロッパではどうでしょうか。例えば、スイスでは博士の学生の給料は年間500万円です。人件費を削減させるためにも欧米ではできるだけ4年間で卒業させるというのが原則のようです。
欧米では、例えば、4年間経って研究がまとめられるめどが立ったら、その論文の投稿や発表は、次のラボに移ってから新しい仕事と並行させて行うということもあるようです。
3つ目の理由としては臨床のラボではプロジェクトを進めていくペースが比較的ゆっくりなためです。
PIの先生も病棟業務が忙しく、なかなかディスカッションをする時間が取れず、研究における様々な決定事項に時間がかかってしまうことがよくあります。
また研究費的な面からも、できるだけ実験のコストを削減するために、時間のかかる処理を余儀なくされることもあります。
いつはじめるか?それぞれのメリット・デメリットを考える
それぞれのキャリアについて、一医学生なりの意見をのべてみようと思います。生意気に聞こえたら申し訳ないです。
卒後6年目以降ではじめる
卒後6年目以降で始まる人は博士課程をはじめるなかでは遅めの部類ではないでしょうか。
メリットとしては、臨床能力がかなりついていて、研究で医学的見地・知識をフル活用して進められることがあるとおもいます。また、貯金があることや、アルバイト先を見つけやすいことなどもあります。
デメリットとしては、すでに配偶者や子供がいる場合、生活費・養育費などの負担があり、経済状況が厳しいことがあります。

他には、病院で医師として長く働けばその分だけ、病院とのつながりや責任も増え、博士課程を始めにくくなっていく点もあります。
また、ある先輩の話で後期研修修了後、博士課程をとらないままずるずると病院で働いていたがヒラの医師のままだったという話も伺いました。
博士号を取れば、臨床でも次のキャリアアップにつながるそうです。
卒後5年ではじめる
卒後5年ではじめるというのは初期研修・後期研修を終えた段階ではじめるということです。
これがもっともよくあるパターンなのかと思います。
メリットとしては、後期研修という区切りがついたところで、次のキャリアアップを狙える点。また、臨床的な能力も5年間でかなりつき、はやすぎず、おそすぎず、医師としてのキャリアとしてもバランスが良い点などがあります。
デメリットは少ないような感じもします。
強いていうならば、研究や基礎医学でのキャリアを狙っている場合、やや遅いかもしれないということです。

卒後5年で博士課程に進んだ場合、博士取得時は35歳くらいです。
そこからポスドクを3、4年研究を続けていい論文をかけたとしても、すでに40歳手前ということになります。
また35歳になっていれば、子供などもいる人も多く、ポスドク留学などは現実的に厳しくなってくると思われます。

卒後2年ではじめる
研究に興味がある人は卒後2年で博士課程に行く人がよくいます。
医学部の基礎のラボの教授は医学部出身の先生が多いですが、個人的な印象として、卒後2年で研究の道に入った先生が多かった気がします。
メリットとしては、まだ若いうちから、研究のキャリアを開始でき、ポスドクなどで留学する機会も豊富な点です。
また、最低限、初期研修さえ終えていれば、臨床のアルバイトはできるというメリットもあります。
デメリットとしては臨床の能力がまだ不十分であり、専門性がない点だと思います。医学的な視点を2年間で十分に養える人はごくわずか、というかほとんどいないとおもいます。
アルバイトなども単価の高い専門科のアルバイトはできません。
卒後すぐにはじめる
卒後すぐ始める人は学年の人数は100人だとしたら2、3人くらいかもしれません。
メリットとしては基礎研究の道に進みたい人はその道をできるだけ早く始められることがあります。
また留学で博士課程をとることを考えている場合、卒後すぐのほうが留学しやすいと思います。なぜなら6年生の自由実習の期間がたっぷりあり、その時間を使って準備を進められるからです。
デメリットとしては、初期研修していないためアルバイトができないということがあります。
また臨床に戻ってきにくいということがあります。戻るとすれば、初期研修から始めるということになります。
またみんなと違うキャリアを進むという不安もあります。

卒業前にはじめる
これはかなりトリッキーな方法ですが、大学によってはMD-PhDコースといって、大学4年間の座学のあと、博士課程に進み、博士取得後に病院実習を2年間して、MDをとるという課程もあります。
メリットとしては博士号を誰よりも早くとることができます。
この課程に進む人は研究への相当な興味がある人ですが、4年間どっぷり研究に漬かった後、2年間の実習や、卒後の研修に、研究のキャリアを中断させられることを余儀なくされるデメリットもあります。
まとめ
人によって様々なキャリアが考えられるということが分かりました。
医学部出身者のキャリアは本当に自由度が高く、様々な選択肢が考えられ、迷うこともみなさん、多いんじゃないかなっておもいます。
でも一方、キャリアの立て方ミスったと話している医師にはほとんどであったことがないです。なんだかんだ、自分で選んだキャリアがその人にとって結果的に最善の選択になるのかもしれないな、って思います。
投稿読んでいただきありがとうございます。みなさんの参考になると嬉しいです。