当記事では新型コロナウイルスの最新研究を中心に症状・診断・治療・予防法をまとめています。
新型肺炎の原因ウイルス
コロナウイルスについて
WHO Novel coronavirus (2019-nCoV) youtubeより
新型肺炎の原因ウイルスはコロナウイルスの一種です。コロナとは王冠(クラウン)を意味し、王冠のようなスパイク状のタンパク質を持つのが最大の特長です。
コロナウイルスはこのスパイクタンパク質を用いて細胞に侵入します。
呼吸器や消化管に感染し、ごく一般的な風邪(ウイルス性上気道炎)や肺炎を引き起こします。
一方でいくつかのタイプは深刻な感染症を引き起こします。
記憶に新しいところではSARS-CoVはSARS(中国-2003)、MERS-CoVはMERS(サウジアラビア-2012)を引き起こしましたよね。
今回の新型コロナウイルスはWHOによりSARS-CoV2という名前になりました。
SARS-CoV-2が引き起こす新型肺炎などの感染症はCOVID19と命名されました。

新型コロナウイルスの遺伝子解析
The identification and characterization of a novel coronavirus associated with the recent outbreak of respiratory illness in China reveals similarities with SARS coronaviruses, according to a study published in Nature. https://t.co/v9yWkMbCLr pic.twitter.com/67wEhoz4c5
— Nature (@nature) February 4, 2020
2020年2月3日にNature誌より、新型コロナウイルスの遺伝子解析の研究が発表されました。
新型コロナウイルス2019-nCoVの遺伝子解析から79.5%の遺伝子はSARSコロナウイルスと同様の配列であることが確認され、遺伝子のタンパク質をコードしている部分の解析からSARSコロナウイルスの親戚であることが判明しました。
96%はコウモリのコロナウイルスと同じ配列であり、コウモリが起源であることを強く示唆しています。
また今回の研究で、新型コロナウイルスはSARSコロナウウイルスと同様にACE2という肺細胞上のタンパク質を侵入の際に用いることが分かりました。
下はコロナウイルスの系統樹です。新型ウイルスはSARSウイルスの属す枝に付け加えられました。
(引用)Wenjie Tan, NEJM, 2020年2月20日, A Novel Coronavirus from Patients with Pneumonia in China, 2019
スパイクタンパク質の構造解析
Just weeks after the genome sequence of recently emerged #coronavirus—2019-nCoV—was published online, researchers have reported in Science the cryo-EM structure of the protein it uses to gain entry to host cells, which may help with vaccine efforts. https://t.co/fBqwxsgjWg pic.twitter.com/psMeZ4kyCT
— Science Magazine (@ScienceMagazine) February 22, 2020
テキサス大と国立アレルギー・感染症研究所の研究チームが2月19日のサイエンスに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の構造を発表しました。
低温電子顕微鏡法(Cryo-EM、クライオ電子顕微鏡法)という試料を低温において解析する手法で、染色せず、凍結することで、より生体に近い構造を観察することに成功しました。
新型ウイルスのスパイクタンパク質が結合する受容体タンパク質は、SARSウイルスの場合と同じACE2であることがこれまでの研究で分かっています。
研究チームが新型ウイルスのスパイクタンパク質をACE2と結合させる実験を行ったところ、SARSより結合力が強いことが判明しました。この結果は新型ウイルスがSARSよりもはるかに速く拡大している要因であることを示唆します。
SARSウイルスに特異的な抗体は新型ウイルスに結合をせず、抗体の交叉反応は起こりにくいことがわかりました。
つまりSARSウイルス用の抗体は新型肺炎の治療には有用でない可能性が判明したのです。

しかし、新しい構造解析結果はワクチンや、侵入を阻害する抗ウイルス薬の開発に広く利用されることが期待されています。
新型肺炎の症状・診断
臨床症状と予後・経過について
コロナウイルスの引き起こす症状は風邪症状、頭痛や筋肉痛、さらには腎機能障害です。
進展すると呼吸困難感を伴います。

44000人の患者のデータに基づくWHOの発表では
81%が軽症
14%が重症
5%は致命的な症状
となっています。
死亡率は今のところ1-2%ですが、現在治療中の数千人の患者がいることを考えると増加する可能性があります。
死亡の原因としては呼吸不全が多くを占めています。

重症化するとなぜ呼吸不全が起きるか
新型肺炎では症状が重くなるにつれ、呼吸困難が生じ、酸素を投与するにも関わらず、呼吸不全により死に至ります。

Case Report: Pathological findings of #COVID19 associated with #ARDS
Including histological findings of lung, liver, and heart tissue. Provides new insights into the #pathogenesis of #SARSCoV2-related #pneumoniahttps://t.co/ZSMWQIm4Ab#coronavirus pic.twitter.com/vFVVtbxQL2
— The Lancet Respiratory Medicine (@LancetRespirMed) February 18, 2020
2020年2月17日にThe Lancet Respiratory Medicine誌から新型肺炎で呼吸不全で亡くなった患者の病理(細胞・組織の形態のこと)に関する研究が発表されています。
この研究では発症後2週間後に呼吸不全で死亡した50歳男性の病理像を調べました。
この結果から、患者の肺では、ガス交換を行う肺胞細胞の構造が壊れ、肺胞に空気を通しにくい膜が形成されていました。また肺の中に水分が染み出す肺浮腫という状態になっている部分も観察されました。
肺は空気を通しにくい膜と水分でガス交換が行えず、肺が溺れて息ができない状態になっていたのです。
この状態は一般的にARDSという病態であり、SARSやMERSの病理的特徴と類似しています。
新型肺炎ではARDSになることで呼吸不全となり、最悪の場合死亡するのです。
診断数の急増
下の図は中国での感染者数のグラフです。
https://ncov.dxy.cn/ncovh5/view/pneumoniaより

錯綜する診断基準
湖北省は2月13日の発表分から基準を緩和し、肺CTなどの「臨床診断」でも感染確認を可能にしました。
これにより同日は約1万3300人の臨床診断が加わり、一気に感染者が約1万4800人も増加しました。

同省は「(ウイルス検査を待たずに)患者が治療を早期に受けられ、救命率を高める」ためだと意義を強調しました。
ところが政府は19日、わずか1週間で診断基準を再度変更させ、湖北省の特別扱いを廃止し、同省の翌20日の新たな感染者は前日の1693人から349人に激減しました。
診断基準にCTでの画像診断を用いるかどうかはいまだ決まっていない状態なのです。

CTの有用性は?
The Lancet Infectious Diseases誌から2020年2月24日に新型肺炎の現在までの最大のコホート研究が発表されました。
この研究では新型肺炎81例の患者に関して、経過に応じた肺のCT画像を調査しました。
(引用)Heshui Shi, et al. The Lancet Infectious Diseases, 2020年2月24, Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study
この結果から、新型肺炎患者の肺ではすりガラス影(上図Aの白いところ)という特徴的な模様が観察されることが分かりました。
このすりガラス影は未発症感染者でも93%に観察されました。
したがって、症状出現の前からCT変化が確認されるため、CT診断は感度の高い診断方法であることが示されました。
CT診断はPCR検査とともに、濃厚接触者のスクリーニングに用いることができ、とくにPCR検査で偽陰性(本当は感染しているのに陰性の結果が出ること)の感染者をすくいあげるのに有効であることが示唆されます。

X線画像で正常のときにCT診断をするべきか?など、どのような場合にCT診断をするかについては今後さらなる研究や熟慮が必要となってきます。
(参考)Elaine YP Lee, The Lancet Infectious diseases, 2020年2月24日, COVID-19 pneumonia: what has CT taught us?
新型肺炎の治療・予防
治療について
現段階の治療は基本的には呼吸管理などの保存療法で、免疫がウイルスを排除するのが必須となってきます。
しかし今年の年末までにはワクチンのヒト臨床試験を開始することが期待されており、他にもHIV薬をはじめとした、様々な薬の可能性を探っている最中です。
AIを用いた治療薬の探索

NEW #Coronavirus content: Baricitinib as potential treatment for 2019-nCoV acute respiratory disease. P Richardson et al used BenevolentAI to search for approved drugs that could help. Early investigations require further detailed work https://t.co/iq2o5Lew5G pic.twitter.com/c7D4HU6EeO
— The Lancet (@TheLancet) February 4, 2020
インペリアルカレッジロンドンの研究者Justin Stebbing氏らは、2月4日医学雑誌「The Lancet」で新型肺炎の治療についての新しい見解を示しました。
この研究グループはBenevolentAIというAIソフトを用いて有効な治療薬の探索を行いました。
ACE2を肺の細胞に侵入する際に用いるが、この際に肺細胞由来のAAK1という酵素を利用する可能性があります。
バリシチニブはAAK1阻害薬の1つで、悪性関節リウマチに用いられる薬です。
Justin Stebbing氏らはバリシチニブがウイルスの侵入を防げる可能性があると提言し、臨床試験を行うべきだと主張しています。

無症状患者からの感染は?
Correspondence: SARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of Infected Patients #COVID19 #SARSCoV2
— NEJM (@NEJM) February 20, 2020
中国・広東省疾病管理予防センターのJie Wu氏らが、COVID-19の患者18例について、鼻と喉から採取し検体を調べました。
鼻でより高いウイルス量が検出され、ウイルスの広がり方は、ゲノム配列が類似しているSARS-CoVよりもインフルエンザに近いことが分かりました。
また、症状のある感染者と無症状の感染者のウイルス量に大きな差はないことが判明しました。
この結果は無症状者からの感染報告を裏付ける結果となり、無症状接触者の隔離の必要性を示唆しています。

WHOの提言する予防法
WHO, Novel coronavirus (2019-nCoV) youtubeより
いまのところ、最も効果がある予防法は手洗いです。
こまめに手洗いをして、口の周りを触るのを控えるようにしましょう。
おわりに
新型肺炎に関する様々な研究が進む中、情報の取捨選択も大切になってきています。
「正しく恐れる」ことを心がけ、情報に振り回されず、各自対策を頑張っていきましょう!
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