最近ラボの学生が書いた論文がリビジョンにまわり、ボスは上機嫌である。
この論文は数ヶ月前に某トップジャーナルにサブミットされたものの、そこではreviewer rejectに終わった。遺伝子調節に重要だと考えられてきた分子が実はほぼ何もしていなかったという論旨なのだが、「何もしていない」ということを示すのは困難であるため、体系的に丁寧にデータをとり、「少なくともこれまで考えらてきたような大きな表現系はなかった」ということを示した。しかしやはり、機能を持っていないという論旨がreviewerに受け入れらなかったようだ。
サイエンスにはpositive resultへのバイアスが強く存在する。一発で面白い変化が観察されればそれでよし、観察されなければ観察されるまで何十回、何百回と条件を変えて実験する。他の細胞種や実験系では再現できないような実験結果が数多に発表され、場合によっては数十年もその概念が保持されることもある。一方である概念を否定するような研究は論文になりにくいし、反証するというのはバイオロジーの性質上困難なことが多い。
このような言ったもん勝ちの世界では、真偽・普遍性の検証は論文が年月を経て自然淘汰されていくかどうかに大きく依存する。個人的には新規性はなくとも確立された概念の普遍性を丁寧に検証する研究はもっと評価されるべきだと思う。
無神論